2025.10.24 包装についての豆知識

目次
私たちの身の回りには、食品から工業製品まで、様々なものが「包装フィルム」によって包まれています。
しかし、一口に包装フィルムと言っても、その素材となる樹脂(プラスチック)の種類によって、見た目や性能、得意なこと、苦手なことが大きく異なります。
最適なフィルムを選ぶことは、製品の品質を保ち、安全に届けるために非常に重要です。
このコラムでは、まず代表的な包装フィルムの種類とその特徴を詳しく解説し、「なぜフィルム選びが重要なのか」をご理解いただきます。
次に、実際にフィルムを選ぶ際のポイント(対策)を整理します。
最後に、フィルムを扱う上でしばしば問題となる「静電気」とその対策について、一般的な製品例を交えながらご紹介します。
包装フィルムに使われる樹脂(プラスチック)には多くの種類があり、それぞれが持つ特性(強度、耐熱性、バリア性、透明性など)や得意な用途、価格帯は大きく異なります。 そのため、包みたいモノ(内容物)の種類、保存期間、輸送方法、求められる機能性、そしてコストなどを総合的に考えて、最も適したフィルムを選ぶことが非常に重要になります。 間違ったフィルムを選ぶと、内容物の品質が劣化したり、包装が破れてしまったり、期待した機能が得られなかったりする可能性があります。
どうしてフィルム選びが重要なのでしょうか? 代表的なフィルムとその違い フィルム選びがなぜ重要なのか、その理由は各フィルムが持つユニークな特性にあります。 ここでは、代表的な樹脂フィルムについて、それぞれの特徴、メリット・デメリット、そして具体的な用途例を見ていきましょう。 これらの違いを知ることが、最適なフィルム選びの第一歩です。
PETフィルムとは PETフィルムは、ポリエチレンテレフタレートという樹脂から作られるフィルムです。
透明度が高く、強度にも優れているため、非常に幅広い分野で活躍しています。
皆さんがよく目にするペットボトルもこの仲間です。
PETフィルムの特徴
透明性: 中身がクリアに見えます。
強度: 引っ張りや摩耗、衝撃に強い丈夫なフィルムです。
耐薬品性: 多くの薬品に対して耐性があります。
耐熱性: ある程度の熱に耐えられます(融点:約260℃)。
電気絶縁性: 電気を通しにくい性質があります。
バリア性: 水蒸気やガスをある程度通しにくい性質があります(厚み12μmで60g/m²・day ※40℃90%RH)。
リサイクル性: リサイクル可能な環境に配慮した素材です。
機械的特性 (フィルム厚さにより異なります) 引張強度や伸び、圧縮や曲げに対する強さ、熱に対する寸法安定性に優れています。
PETフィルムのメリット
幅広い用途(食品包装、電子部品、印刷、建築など)に対応できます。
比較的安価に入手できます。
熱で形を変えたり、印刷したり、他のフィルムと貼り合わせたり(ラミネート)する加工がしやすいです。
PETフィルムのデメリット
紫外線にやや弱く、屋外で長時間使うと劣化することがあります。
一部の溶剤には溶けることがあります。
表面に傷がつきやすい場合があります。
PETフィルムの用途例 食品トレー、電子部品の保護フィルム、ラベル、窓用フィルム、磁気テープなど。
PETフィルムの種類 一般的なものから、耐熱性や耐薬品性を高めたもの、光やガスを通しにくくするために金属を蒸着したものなど、様々な種類があります。
PPフィルムとは ポリプロピレンという樹脂から作られるフィルムです。PETフィルムと並んで広く使われています。
PPフィルムの特徴
軽量性: PETフィルムよりも軽いです(比重0.90~0.91)。
耐熱性: 熱に強く、高温でも形が変わりにくいため、電子レンジ対応の食品包装などにも使われます(常用耐熱温度100℃~140℃、融点:約165℃)。
耐薬品性: 多くの薬品に耐性があります。
耐衝撃性: 衝撃に強く、破れにくいです。
電気絶縁性: 電気を通しにくい性質があります。
バリア性: PETより水蒸気を通しにくいです(10g/m²・day ※40℃ 90%RH)。
機械的特性 (フィルム厚さにより異なります) 高い引張強度による耐久性、柔軟性による扱いやすさ、印刷適性、環境変化への耐性などが挙げられます。
PPフィルムのメリット
軽さが求められる製品に適しています。
高温での使用が可能です。
薬品に触れる可能性がある製品に適しています。
大量生産に向いており、コストを抑えやすいです。
リサイクル可能です。
PPフィルムのデメリット
種類によっては表面への印刷がしにくい場合があります。
紫外線に弱く、屋外での長期使用には向きません。
一般的な接着剤ではくっつきにくい場合があります。
PPフィルムの用途例 食品包装(パンの袋など)、自動車部品、文房具(クリアファイルなど)、農業用フィルムなど。
PPフィルムの種類 透明度が低い一般的なもの、耐熱性や耐薬品性を高めたもの、強度や耐熱性に優れた無延伸タイプなどがあります。
PEフィルムとは ポリエチレンという樹脂から作られる、非常に身近なフィルムです。スーパーのレジ袋などが代表例です。
PEフィルムの特徴
柔軟性: とても柔らかく、加工しやすいです。
耐水性: 水をほとんど通しません。
耐薬品性: 多くの薬品に耐性があります。
電気絶縁性: 電気を通しにくい性質があります。
軽量性: 軽くて扱いやすいです(比重0.91~0.92)。
低コスト: 安価に製造できます。
融点: 約105~115℃(低密度ポリエチレンの場合)。
バリア性: 水蒸気はやや通しやすいです(低密度ポリエチレンで18g/m²・day ※40℃ 90%RH)。
機械的特性 (フィルム厚さにより異なります) 引き裂きや衝撃に対する強さ、特に低密度ポリエチレン(LDPE)の優れた柔軟性が特徴です。
PEフィルムのメリット
非常に多くの用途(食品包装、ゴミ袋、農業用フィルムなど)に使えます。
軽くて水より比重が小さいです。
熱で容易に接着(ヒートシール)でき、印刷やラミネート加工も可能です。
安価でありながら基本的な性能はしっかりしています。
電気を通しにくいです。
PEフィルムのデメリット
熱に弱く、高温では変形したり溶けたりします。
紫外線に弱く、屋外での長期使用には向きません。
表面が傷つきやすく、摩耗しやすいです。
種類によっては透明度が低い場合があります(高密度ポリエチレンなど)。
PEフィルムの用途例 食品用ラップ、レジ袋、ゴミ袋、農業用マルチシート、工業部品の包装など。
PEフィルムの種類 密度によって大きく2種類に分けられます。
硬くて丈夫な「高密度ポリエチレン(HDPE)」(ボトル容器など)と、柔らかくてしなやかな「低密度ポリエチレン(LDPE)」(ラップや袋など)があります。
PVCフィルムとは ポリ塩化ビニルという樹脂から作られるフィルムです。耐久性と加工のしやすさが特徴です。
PVCフィルムの特徴
耐久性: 水や薬品、天候の変化に強く、長持ちします。
柔軟性: 添加剤(可塑剤)の量によって、非常に柔らかいもの(軟質PVC)から硬いもの(硬質PVC)まで作れます。
耐候性: 紫外線や雨風に強く、屋外での使用にも適しています。
電気絶縁性: 電気を通しにくい性質があります。
融点: 約93℃(軟質の場合、可塑剤の種類や量で変わります)。
バリア性: 水蒸気はある程度通します(40g/m²・day ※20℃、65%RH)。
機械的特性 (フィルム厚さや硬さにより異なります) 比較的高い引裂強度、優れた衝撃吸収性、特に軟質PVCの高い柔軟性が特徴です。
PVCフィルムのメリット
幅広い用途(建材、工業製品、日用品など)に利用できます。
熱成形、印刷、ラミネートなど、様々な加工がしやすいです。
抗菌、UVカット、静電気防止など、様々な機能を付加できます。
安価で性能が高いです。
屋外での使用にも適しています。
PVCフィルムのデメリット
燃やすと有害物質(ダイオキシン類)が発生する可能性があり、環境への配慮が必要です。
軟質PVCに含まれる可塑剤が、接触するもの(特に食品)へ移る可能性があります。
耐熱性は高くありません。
燃えやすい性質があります。
PVCフィルムの用途例 床材や壁紙などの建材、電線の被覆、ホース、レインコート、文房具(デスクマット)など。(食品用途は可塑剤移行に注意が必要です)
PVCフィルムの種類 柔らかい「軟質PVC」(シートやフィルム)と、硬い「硬質PVC」(板状)に大別されます。
ナイロンフィルムとは 一般的に「ナイロン」と呼ばれるポリアミド樹脂から作られるフィルムです。強度、耐熱性、ガスバリア性に優れています。
ナイロンフィルムの特徴
高い強度: 引っ張りや摩擦、突き刺しに非常に強く、丈夫です。
耐熱性: 熱に強く、高温環境でも使用できます(融点は種類によるが、汎用ナイロンで約220℃~260℃)。
耐薬品性: 多くの薬品や油に対して安定しています。
バリア性: 酸素などのガスを通しにくい性質(ガスバリア性)があります。ただし、水蒸気は比較的通しやすいです(170g/m²・day ※40℃90%RH)。
柔軟性: しなやかさも併せ持ちます。
耐摩耗性: 摩擦に強いです。
機械的特性 (フィルム厚さにより異なります)
高い引張強度、引裂強度、衝撃強度が特徴です。
ナイロンフィルムのメリット
破れにくく丈夫なので、重量物や突起のあるものの包装に適しています。
食品の酸化を防ぐ包装(真空パック、ガス充填包装など)に有効です。
レトルト食品のように高温殺菌が必要な包装にも使えます。
印刷しやすいです。
油に強いです。
ナイロンフィルムのデメリット
湿気を吸いやすく(吸湿性)、水分を含むと寸法が変わったり強度が少し低下したりすることがあります。特に高温多湿下では衝撃強度が低下しやすいです。
ナイロン単体ではヒートシール(熱で接着)が難しいため、通常、ポリエチレンなど他のフィルムと貼り合わせて(ラミネートして)使われます。
他の汎用フィルムと比較してコストが高めになる傾向があります。
紫外線にはあまり強くありません。
ナイロンフィルムの用途例 食品包装(レトルトパウチ、漬物、ハム・ソーセージ、冷凍食品、液体スープなど)、医療品包装(滅菌包装)、工業部品(電子部品の保護など)。
番外編:エンジニアリングプラスチック(エンプラ)を使用したフィルム
ここからは、一般的なプラスチックよりもさらに高い耐熱性や強度を持つ「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」を原料としたフィルムを紹介します。
これらはより過酷な条件下での使用や、特殊な機能が求められる場面で活躍します。
PBTフィルムとは ポリブチレンテレフタレートというエンプラの一種から作られる高機能フィルムです。
PBTフィルムの特徴
高い機械的強度: 非常に丈夫で、衝撃や突き刺しに強いです。
優れた耐熱性: 高温に耐えられます(融点:約220℃)。
良好な電気的特性: 電気を通しにくく、特性が温度変化の影響を受けにくいです。
低吸水性: 水分を吸いにくいため、湿度の影響を受けにくいです。
高い寸法安定性: 温度や湿度が変化しても、形やサイズが変わりにくく、精密さが求められる用途に適しています。
優れた成形性と加工性: コーティングなどの加工がしやすいです。
バリア性: 非常に水蒸気を通しにくいです(2軸延伸PBTフィルムで0.4 g/m²・day ※40℃、90%RH)。
PBTフィルムのメリット
PETなど他のフィルムより高い強度を持っています。
加工性に優れています。
寸法安定性が非常に高いです。
電気・電子部品に適した電気特性を持っています。
多くの薬品や油に強いです。
高温でもガスが発生しにくい(低アウトガス性)。
PBTフィルムのデメリット
一般的な樹脂フィルムよりコストが高くなります。
強いアルカリ性の薬品には弱いです。
水分存在下で加熱すると分解(加水分解)しやすいため、加工前の乾燥が重要です。
PBTフィルムの用途例 電気・電子部品(コネクタ、スイッチなど)、自動車部品、産業機器部品、離型フィルム、カバーテープ、3D加飾転写材料、リチウムイオン電池の外装材など。
補足:PBTフィルムのユニークな性質 PBTフィルムは、ポリエチレンのような「低吸水性」「耐薬品性」と、ナイロンのような「高い機械的強度」「耐熱性」を併せ持つような特性があります。
さらに、「優れた寸法安定性」「電気絶縁性」「成形性(絞り加工が可能)」「低汚染性」といった独自の長所も持っています。
このように、それぞれのフィルムが持つ特性は実に様々です。だからこそ、目的や用途に合わせて最適なものを選ぶ必要があるのです。
最適なフィルムを選ぶためのポイント 多種多様なフィルムの中から最適なものを選ぶためには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか? ここでは、フィルム選定における重要なポイントを整理します。
(1)用途に応じた特性を確認する
強度と耐久性: 包む内容物の重さや形状に耐えられるか? 輸送中や保管中に破れたり、穴が開いたりしないか?
バリア性: 内容物を何から守りたいか? 酸素、水蒸気、光、香りなど、遮断したいものに応じたバリア性を持つフィルムを選びます。特に食品では鮮度保持のために重要です。
シール性: 袋状にする場合、熱でしっかりと封(シール)ができるか? シール強度は十分か?
(2)加工や機械との相性を考える
印刷適性: ロゴや商品情報を印刷する場合、きれいに印刷でき、インクが剥がれたりしないか?
機械適性: 自動包装機(製袋機や充填機)でスムーズに使えるか? 滑りやすさや硬さなどが機械に合っているか?
静電気: フィルムは静電気を帯びやすいものがあります。静電気が発生すると、ホコリが付着したり、作業性が悪くなったり、場合によっては電子部品を壊したりすることがあります。
静電気対策が必要な場合は、帯電防止機能を持つフィルムを選ぶか、後述する静電気対策を検討します。
(3)コスト
求める性能を満たしつつ、予算に見合う価格か?
(4)法規制への適合
食品衛生法(食品包装の場合)や、輸出先の国の規制(例:欧州のREACH規則など)に適合しているか?
これらのポイントを総合的に検討し、優先順位をつけながら、最適なフィルムを選定していくことが重要です。
フィルムは、その性質上、摩擦などによって静電気を帯びやすい素材です。特に乾燥した環境では静電気が発生しやすく、様々な問題を引き起こす可能性があります。 静電気による問題の例 ホコリの付着: 静電気でフィルム表面に空気中のホコリが引き寄せられ、見た目が悪くなったり、製品の清浄度を損なったりします。 作業性の低下: フィルム同士がくっついたり、機械にまとわりついたりして、包装作業の効率が悪くなります。 電子部品の破壊(ESD:静電気放電): 半導体などの精密な電子部品は、わずかな静電気放電でも壊れてしまうことがあります。 電撃: 人が帯電した物体に触れた際に、パチッとした痛みや不快感を感じることがあります。 引火・爆発: 可燃性のガスや粉塵がある環境では、静電気の火花が着火源となり、火災や爆発を引き起こす危険性があります。 これらの問題を解決・軽減するために、様々な静電気対策製品が利用されています。 ここでは、一般的に使われている静電気対策製品の種類と、代表的な取扱会社やメーカー(順不同)をいくつかご紹介します。
(1)帯電防止袋・導電袋
目的: 静電気の発生を抑えたり、発生した静電気を速やかに逃がしたり、外部からの静電気放電から内容物を保護したりします。電子部品の包装・保管に不可欠です。
種類:
帯電防止ポリ袋(ピンクポリなど): 界面活性剤などが練り込まれ、静電気の発生を抑えます。安価ですが、効果は永続的ではありません。
導電性ポリ袋(カーボン練り込みなど): カーボンなどを練り込み、電気を通しやすくして静電気を逃がします。黒色で中身が見えません。
静電気シールド袋: 金属層(アルミ蒸着など)を挟み込み、外部からの静電気放電(ESD)から内部の電子部品を守ります。半透明で中身がある程度見えます。
アルミ防湿袋(帯電防止タイプ): 高いバリア性(防湿・ガスバリア)と静電気対策(シールド性、帯電防止性)を兼ね備えた袋。
代表的な取扱会社/メーカー: 3M、Desco (SCS)、 Achilles(アキレス)、Okura Industrial(オークラ工業)、Mitsubishi Chemical(三菱ケミカル)、Toray(東レ)、Unitika(ユニチカ)、大倉工業、福助工業、シーダム、テクノスタット工業 など多数。
(2)イオナイザー(除電器)
目的: プラスとマイナスのイオンを発生させ、対象物の帯電気を中和(除去)します。局所的な除電から、広いエリアの除電まで様々なタイプがあります。
種類: ブロワータイプ、バータイプ、スポットタイプ、ガンタイプなど。
代表的な取扱会社/メーカー: Simco-Ion(シムコイオン)、Keyence(キーエンス)、SMC、Vessel(ベッセル)、Kasuga Denki(春日電機)、Trinc(トリンク)、SSD、白光 など多数。
(3)帯電防止テープ・静電気除去テープ
目的: 静電気対策エリアでの仮止めやマーキング、あるいは貼るだけで除電効果を発揮するものなどがあります。
代表的な取扱会社/メーカー: 3M、寺岡製作所、日東電工、スリーエムジャパン、など多数。
これらの製品は、用途や目的に合わせて適切に選択し、組み合わせて使用することが重要です。
特に電子部品を扱う場合などは、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
※まとめ
このコラムでは、包装フィルムの種類とその多様な特性、そして最適なフィルムを選ぶためのポイントについて解説しました。
また、フィルムを扱う上で重要な静電気の問題と、その対策についても触れました。
最適な包装フィルムを選ぶことは、製品の価値を守り、安全性を確保する上で欠かせません。
そして、必要に応じて静電気対策を講じることで、よりスムーズで安全な生産活動や製品の取り扱いが可能になります。
この情報が、皆様のフィルム選びや静電気対策の一助となれば幸いです。
ご相談・お問い合わせはこちら
お問い合わせはこちら