2024.11.19
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ESD関連規格・静電気関連規格について
ESD規格とは?
ESD規格とは、静電気放電(ElectroStatic Discharge:ESD)による電子機器の故障を防止するために、電子機器や部品が耐えられる静電気放電のレベルを定めた規格を指します。
規格とは、工業製品の寸法や形状、材質などの標準を決め、「ルール」を文章にしたものです。
ESD規格の目的
ESD規格は、以下の目的で制定されています。
- 電子機器の信頼性向上: ESDによる故障を防止し、電子機器の信頼性を高める。
- 製品の品質確保: 製品が一定のESD耐性を有することを保証する。
- 国際的な互換性: 世界中で共通の基準を設けることで、製品の国際的な流通を円滑にする。
ESD規格の概要
ESD規格は以下の要素を含んでいます。
- 静電気放電に関する標準的な基準とガイドライン
- ESD試験の方法と条件
- 製品開発における静電気対策の指針
ESD試験
ESD規格への適合を証明するためにESD試験が行われます。
この試験では、静電気放電に模した波形を供試機器に与え、破損や誤動作などの影響を評価します。
主なESD試験方法には以下の3つがあります。
- HBM (人体モデル): 人体に蓄積した静電気による放電を評価
- MM (マシンモデル): 金属工具や装置などの誘導体に蓄積した静電気による放電を評価
- CDM (デバイス帯電モデル): デバイス自体に蓄積した静電気による放電を評価
HBM(人体モデル)試験について
人体モデルとは?
ESD(静電気放電)試験において、人体モデルは、人が静電気を帯電し、電子機器に放電する状況を模擬するための試験方法です。この試験方法では、人体を模倣した回路(コンデンサーと抵抗の組み合わせ)を用いて、電子機器に一定の電圧と電流を印加し、その影響を評価します。
人体モデル試験の目的
- 電子機器の耐性評価: 電子機器がESDによってどのような影響を受けるかを評価し、その耐性を確認します。
- 製品の信頼性向上: ESD耐性を高めることで、製品の信頼性を向上させ、市場での競争力を高めます。
- 規格適合性の確認: IEC 61000-4-2などの国際規格や、各国の国内規格で定められたESD耐性レベルを満たしているかを確認します。
人体モデル試験の方法
- 試験装置の準備: 人体モデルを模倣した試験装置、被試験機器、接地などを準備します。
- 試験条件の設定: 試験電圧、波形、接触時間などの試験条件を設定します。
- 放電: 人体モデルから被試験機器に放電を行います。
- 影響の評価: 放電後の被試験機器の動作を確認し、異常が発生したか、性能が低下したかなどを評価します。
CDM(帯電デバイスモデル)試験について
CDMとは?
CDMは、Charged Device Modelの略で、日本語では帯電デバイスモデルと訳されます。ESD(静電気放電)試験の一種であり、電子機器自体が帯電し、他の導体と接触することで発生する放電を模擬する試験方法です。
CDM試験の目的
- 電子機器の耐性評価: 電子機器が、自ら帯電して他の部品や基板と接触することで発生するESDに対する耐性を評価します。
- 製品の信頼性向上: CDM試験によって、製品のESD耐性を高め、製品の信頼性を向上させます。
- 規格適合性の確認: IEC 61000-4-2などの国際規格や、各国の国内規格で定められたESD耐性レベルを満たしているかを確認します。
CDM試験の特徴
- 電子機器の内部での放電: HBM(Human Body Model)試験が人体からの放電を模擬するのに対し、CDM試験は電子機器内部での放電を模擬します。
- 微小な放電: CDM試験で発生する放電エネルギーはHBM試験よりも小さく、より局所的なダメージを引き起こす可能性があります。
- ICなどの小型部品への影響: ICなどの小型部品は、HBM試験よりもCDM試験の方が影響を受けやすい傾向があります。
MM(Machine Model)試験について
MMとは?
MMは、機械モデルと訳され、ESD(静電気放電)試験の一種です。電子機器が、機械部品や工具などから静電気を帯電し、放電する状況を模擬します。
MM試験の目的
- 電子機器の耐性評価: 電子機器が、機械的な接触によるESDに対してどの程度の耐性を持っているかを評価します。
- 製品の信頼性向上: MM試験によって、製品のESD耐性を高め、製品の信頼性を向上させます。
- 規格適合性の確認: IEC 61000-4-2などの国際規格や、各国の国内規格で定められたESD耐性レベルを満たしているかを確認します。
MM試験の特徴
- 機械的な接触による放電: HBM試験やCDM試験がそれぞれ人体からの放電、電子機器内部での放電を模擬するのに対し、MM試験は機械的な接触による放電を模擬します。
- 高エネルギーの放電: MM試験で発生する放電エネルギーは、HBM試験やCDM試験よりも大きく、電子機器に大きなダメージを与える可能性があります。
- 製造工程でのESDリスク評価: 製造工程で、工具や治具との接触によるESDリスクを評価するのに適しています。
ESD規格の種類
国際規格
IEC規格 (International Electrotechnical Commission: 国際電気標準会議)は国際的に広く採用されている電気・電子技術分野の規格です。
国内規格(日本)
- JIS規格 (日本工業規格): IEC規格を基に翻訳されたもので、国際規格と整合性が図られています。
- RCJS規格 (日本電子部品信頼性センター規格): 日本の環境に適した形で、具体的な管理・運用方法を定めた規格です。
米国規格
- ANSI規格 (American National Standards Institute)
- MIL規格 (Military Standard)
これらの米国規格も広く参照されています。
補足情報
中国では、主に国際規格と米国規格を採用しています。
IEC規格: 国際電気標準会議(IEC)の規格が広く採用されています
特にIEC 61340-5-1が重要視され、ANSI/ESD S20.20も認知されています。
ANSI/ESD規格: 米国の規格であるANSI/ESD S20.20も中国で広く認知されています
ESD関連規格の国内標準化の状況について
静電気の基本的な規格 IEC 61340-5
IEC 61340-5類は、静電気放電(ESD)による電子部品や機器の損傷を防ぐための国際規格です。
この規格は、静電気による損害を最小限に抑えるための要求事項を定めています。
日本国内ではRCJS-5-1として規格が定められています。
JISで制定されていない試験方法や静電気対策の要求事項が規定されています。
一般財団法人日本電子部品信頼性センターが公表した規格で、「静電気現象からの電子デバイス保護一般要求事項」として、JISで制定されていな
い試験方法(手袋・指サックなど)を含めた静電気対策のアイテムやシステムについての要求事項を定めています。
電子デバイスの保護を目的とした静電気対策には、この規格に沿ったアイテムの使用が求められているのです。
IEC 61340-5 の目的
- ESDによる損害の防止: 電子部品や機器の静電気による損傷を防止し、製品の信頼性を向上させる。
- ESD管理システムの確立: 企業内にESD管理システムを構築し、効果的な静電気対策を実施するための指針を提供する。
- 国際的な共通基準の提供: 世界中で共通のESD管理基準を設け、国際的な製品の流通を円滑にする。
IEC 61340-5 の構成
IEC 61340-5は、いくつかのパートに分かれており、それぞれが異なるテーマを取り扱っています。主なパートは以下の通りです。
- IEC 61340-5-1: 一般要求事項 – ESD管理プログラムの策定、人員の教育、作業環境の管理など、ESD管理の基本的な要求事項を定めています。
- IEC 61340-5-2: 指針 – ESD管理の実施に関する具体的な指針を提供しています。
- IEC 61340-5-3: 包装に関する要求事項 – 静電気に敏感なデバイスの包装に関する要求事項を定めています。
※ IEC 61340-5-3の正式名称は「静電気-第5-3部:電子装置の静電現象からの保護-静電放電に敏感な装置用として意図された包装の特性及び要求事項分類」。この規格は、製造、手直し、保守、輸送、保管のすべての段階を通じて、ESDに敏感なデバイス(ESDS)を保護するために必要なESD保護パッケージの特性を定義しています。
包装の要求事項(RCJS-5-1より解釈)
- 表面抵抗: 1×102Ω < 表面抵抗 < 1×1011Ω
- 電荷減衰: 初期値(5000V)から1%まで2秒以内
※ 表面抵抗が1×109Ωを超える場合、必須となります。
IEC 61340-5-4: 人体モデル
IEC 61340-5-5: 機器レベル試験
※IEC 61340-5-3の正式名称は
「静電気-第5-3部:電子装置の静電現象からの保護-静電放電に敏感な装置用として意図された包装の特性及び要求事項分類」。
この規格は、製造、手直し、保守、輸送、保管のすべての段階を通じて、ESDに敏感なデバイス(ESDS)を保護するために必要なESD保護パッケージ
の特性を定義しています。
ESD規格の重要性
ESD(静電気放電)は、電子機器の性能を低下させたり、故障の原因となったりする深刻な問題です。この問題に対処するために、ESD規格が制定されています。ESD規格は、電子機器の設計、製造、および使用におけるESD対策を標準化し、製品の信頼性向上に大きく貢献しています。